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115.王妃の庭(文章つき1)

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突然舞い込んだ名誉ある仕事に、アフマドの心は高揚していた。
どんな素晴らしい仕事をして見せようか?
行商たちが西から東からもたらした、種々多様な花木を
真剣に選定しながらアフマドはイメージを膨らませた。


誰から聞きつけたのか、
弟子も持たず、一人ちいさく造園の仕事をしていた自分を訪ねて
宮殿の偉い身分の方が、
王妃様のための庭を造ってくれとやって来たのだ。



王妃様のことは、一度だけ、遠くからだが見たことがある。
あれは何の行事だっただろう、
王様がお出でだというので、ずいぶんな人だかりが出来ていた。
アフマドも吸い寄せられるように群衆にまぎれた。
「王様だ!王様だ!」
同じ方向を見つめた群集が口々に歓声をあげたが、あまりの人だかり。
右に左に、アフマドは首を伸ばし何とか王様を見ようと思うのだが
目に映るのは群集の頭と肩ばかり。
王様は高台の上に乗っておられるはずなのだが…
「あぁ、王様がお帰りになる。」
溜め息まじりの声がどこからともなく漏れ聞こえ、
焦ったアフマドは大きく背伸びして体を横に曲げた。
その時である、
前方の人と人の間に偶然すき間ができ、
きらびやかな金刺繍のベールが横切ったのを見たのである。
それは一瞬のことだったが、
覆われたベールからわずかにのぞいた、
輝くような黒い瞳と長く整った濃いまつげは
アフマドの胸を打ち、息を止めさせるに十分な衝撃であった。


その夜、わびしく質素な夕食の前で一人、アフマドはあの一瞬を
飽きることなく頭の中で反芻していた。
豪奢な服装からして、あの女性はやはり王妃様だったのだろう。
高貴な女性というのは、よく手入れされていて美麗だとは聞いていたが、
美麗という言葉だけでは言い表せない、
何かもっと特別な高貴さをまとっておられた。
生まれた時から良い物だけを口にし、身にまとい、目にして生きてきた…
そう、ホコリにまみれて育ってきた自分のような貧民とは
まるで爪の先まで全てのつくりが違うように思えてならないのだ。
あのような高貴な女性を妻とし、その傍らにすえられる男というのは
何と偉大な男であろう。
何人もの妻をもてる裕福な男とは違い、
自身が生きていくのに精一杯のアフマドのような男には
女性に手を触れる機会さえ生涯ないのである。
妻さえ持てない男から見て、あのような美麗な妻を持てる男達というのは
あまりにも遠く感じられるのだった。
アフマドの心に、じわりと王様への畏敬の念がわきあがった。
自国の王が、その威光にふさわしい妃を持っている。
それは、その国の民として誇らしいことだった。
「そうだ。俺は国民として高貴な王妃様が誇らしいんだ。
 だから感動のあまり、御姿が心から離れないんだ。」
誰に責められたわけでもないのに、アフマドは一人言い訳を口にするのだった。


赤い花の咲く東の国の苗木、幹に不思議な花の付く高山の植物…
行商たちのもたらした無数の花木を、一つ一つ上から下から見まわし
真剣に選ぶアフマド。
派手すぎる花は、違う。もっと楚々としていて、
それでいて地味すぎず、もっと華やかで…
だが、何故だろう、
王妃様の気品にふさわしいと思える物はなかなか無かった。
威厳あるお方のための仕事とはなんと難しいものなのだろう。


期限にせかされ、何とか選び出した花木を荷台に乗せたアフマドは、
宮殿の外門を通され、さらに門をくぐり、
ある建物の扉を抜けて、中庭に続く小さなトンネルを通された。
その先に開けてきた光景は、小さく質素な四角い中庭。
思っていたより小規模だった空間に、
なるほど、それで自分だったのかと一瞬落胆を覚えたアフマドだが、
これは名誉ある仕事なのだと、自分を叱咤し、奮い立たせた。
「あの窓から王妃様は庭をご覧になる。」
案内人の指差した先には、二階の小さな窓。
木彫の装飾がほどこされた窓向こうの室内は
外の明かりよりも暗くてよく見えない。
ここにあの王妃様がお住まいなのかと感慨深く見上げるアフマド。
あまりじろじろ見るなと案内人に叱られ、ハッとしたアフマドは
紅潮した顔を隠すようにあわてて積荷を降ろした。


さて、ここをどんなふうに美しい中庭にしたものか。
期間はそれほど無い。
無いが、最高の仕事をして見せねばならぬ。
アフマドは用意した花木の横ですっかり動きが止まってしまった。
作業を始める最初のきっかけが難しいのだ。
絵描きの友人も言っていた。どんなに構想が練られていても、
白いカンバスに下ろす最初のひと筆が最も緊張し、
最も苦しい作業なのだと。
ひと筆入れてしまえば作業は勢いよく進み出す。
それが分かっていても、やはり最初のひと筆は難しいのだと。
今、アフマドは友人の言葉を身をもって感じていた。
いろんな感情があふれすぎて行動するのが怖くなるのである。
期待どうりの仕事が出来なかったらどうしようか、
王妃様に気に入っていただけなかったらどうしようか…
プレッシャーが、ますますアフマドを動けなくした。


2に続く ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/syanderi/37095060.html