藤田真央さんのリサイタルを観に行って③ 世界のトップに必要なもの…
前記事「②」では、藤田真央さんのパワフルな音に驚いたことと、ピアノの世界でもやはり審査になるとパワー(音量)のある方が有利であるのだな…という話までしました↓
私は生で聴く藤田さんの音のパワーに圧倒されつつ、「そうか、これが世界で戦うトップクラスの人の音なのか」とハッとした次第です。
思えば、世界的なコンクールではガタイの大きい欧米人と肩を並べて演奏し、比べられるわけですよね。女性でも欧米の人は迫力ある腕っぷしの方はけっこう居られますし…
が、
「アジア人は体が小さいし骨格も細いから、それを考慮して少々の迫力の無さは目をつぶってジャッジします」なんて忖度はしてもらえません。体が小さくても細くても女性でも、比べられた時に迫力負けしないパワーが必要なんですね・・・
そうだったんだ…藤田さんが世界のコンクールで勝ち上がってきたのは、体の大きな人たちのパワーに見劣りしない力強い演奏が出来ていたからなのだっ!
(⊙д⊙)‼
私は個人的に繊細で情感あふるる演奏が好きですが、そういった素晴らしものを持っている人でも、(きっと個人のリサイタルでは良くても)コンクールで力強い人と並べ比べられてしまうと、印象が薄くかすんでしまい、評価されにくいんだろうな…
などと、
なにか悟ったような気分になったのでした。
きっと 力は〖標準装備〗として、なおかつ技術、情感、音、解釈などなど、優れた演奏ができてはじめて、世界のトップと競えるのでしょう。
藤田さんの演奏は基本、かなり力強い音がベースになっていますが、それなのに優しく軽やかなタッチも、キラキラとした光の粒のような音も奏で、非常に抑揚があるのがすごいところです。なおかつ、聴き手の胸にもグッと迫ってくるような情感がある…
ステキな音にふあぁ~✨⭐️っとさせたり、一転、フォルテでは、河原に居たとき近くに落雷したあの時のような、内蔵を震えさせるほどのドーーーーーン‼という鋭い轟音にハッとさせたりと、
力技だけではない多彩さで、聴く人を演奏に集中させるのです。
私の考える『天才の要素』のひとつとして、相反するものを併せ持つ・という特性がありますが、まさしく、藤田さんの「力強さ」と「情感、柔らかさ、キラキラとした彩り」の抱き合わせは、天才じゃないとありえない演奏能力です。
この、
「力強さ」と情感や柔らかさ、キラキラ感の抱き合わせがどのぐらいありえないすごさかをフィギュアスケートで言うと、情感あふれる&柔らかさを体現した4回転ジャンプと、キラキラとした彩り豊かなトリプルアクセルを一つのプログラムに入れてしまうぐらいのありえなさ(?)だと思う(゚A゚;)
同時に思ったのが、
この【力強さという土台】は芸術関連のものにおいて、コンクール、コンテスト、オーディションなどなど、ピアノの世界に限らず人と比べ競うものでは『優勝するに欠かせないもの』なんだろうなと、思いを馳せました。
柔らかなもの、繊細なもの、抒情的なもの、可憐なもの・・・
これら優れた物があったとして、それがどれだけ魅力的なものであっても、力強いものとランダムに並べられてしまうと、基本、インパクト負けしてしまうのだと思ふ(料理の鉄人で陳健一氏が辛く濃い味付けで和食と洋食の面子を蹴散らしたように)。
どんなに柔らかで繊細なものでも、土台にはやはり力強さが無いと「並べ比べられるもの」としてはかすんでしまう。良し悪しではなく、それが事実なんだと思ふ。
そうして、
せっかくの藤田さんの演奏中だというのに、私は美術系の高校に通っていた時のことを振り返ってしまいました。
あるデッサンの授業のとき、ふと隣の友だちの描いている絵を見てビックリ。どんな鉛筆を使ったらそんなに濃ゆく強く描けるの?というぐらい、早くもキャンバスが鉛筆のタッチで黒々しているのです。すでに彼女の利き腕の小指と手首が、自分の描いた絵にこすれて黒光り、テカテカになっています。
で、どんな濃い鉛筆を使っているのか聞いたのです「何B使ってんの?」と。
一般的にデッサンで使う鉛筆の濃度は2Bぐらいでしょうか。硬く鋭いHやHBは硬い分あまりタッチに濃さが出ない。なのでデッサンではBか2Bぐらいが一般的かと思われます。私は筆圧が極端に弱いので4Bや6B、しまいにはそれでもキャンバスに色が乗らなくて10Bなどを使うようになりました…
で、
ガッツガツに濃いデッサンをしている友だちの鉛筆を確認したら、なんとHBだったという…。私なら全身の力を込めてもデッサンできない硬さです(꒪⌓꒪)
おもえば、
私は当時から、筆圧が弱くて「何を描いてもワタで出来てる物みたいになってしまう」という残念な個性があったのです。なんでそのことが「残念」なのかというと…
私は受験シーズンになるまで気付かなかったのですが、美大入試の為には「それぞれの美大が求めるデッサンの個性」を身に付けなければならない。そして、狙う美大目指して「その美大の試験に強いデッサン」を研究所に入所し、自分のタッチを「入りたい美大のタッチ」に変えなければならないようなのです。
(もう学生当時に描いたものは無いので遊びで描いたものしかありませんが、やはりワタっぽいです)
で、どの美大でも私の目から見ればかなりガッツリ濃いタッチのデッサンでなければ受からない。私のワタみたいなデッサンではどこにも受からないのです。
おもえば、アートの世界でも強さが根本に無いものが賞を取っているのを見たことがありません。やはりアートの世界でも競うためにはパワーが必要なのです。
歌でも踊りでもデザインでも、多分そう。芸術の世界ではパワーの無いふわっとしただけのものは競い勝てない。
(敗北感…)
もしかして研究所に入って無理に濃く描くことを身に付ければ、私でも美大受験を検討できたかもしれません(ダメかな?)。でもね~。「自分の個性を全否定して、他人好みに根本から変えて何したいんだ?」と非常に疑問に感じたのでした。別に濃くしたくもないし('~`;)。で、受験を考えることはやめて就職したのでした。
正直、ふわんとしたものしか描けない、作れない。
その時点で私は人と比べ競うものに縁は無かった、というか常勝の反対の常負の運命なのであった・・・(T△T) ガーーーン
みたいなことを、藤田さんの演奏を聴いて悟り、とても悲しい気分になっていたのでした(いや、全く藤田さんに非はありません…世界レベルの人を目の当たりにして悟るものがあったのです)
(あぁ、これが世界というものか…)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それにしても藤田さんは集中力がすごかったです。長い演奏中、気がゆるんだなと感じるところが無いし、ミスタッチも本当に少ない。というか、ほとんど無いのでは。
また、期のてらいが無いので、こちらも素直な気持ちで聴くことが出来るのが良いところです。(逆にリストだけはもちっとカッコつけたいやらしさと男くさいエロさでちょうど良くなると思う(笑))
(超集中姿勢!両手のあいだに顔をうずめるほどに丸まったりと、猫のように伸び縮みされながらの演奏)
演奏されたプログラムはモーツァルトに始まり、チャイコフスキー、アルカン、そしてショパンからラヴェルに。
個人的なイメージとしては、藤田さんの明るいあっけらかんとしたキャラクターはモーツァルトが合うのかな?と想像していましたが、意外とチャイコフスキーの演奏がしっくりきている様に感じられました。
アルカンという人の曲は初めて聴きましたが、なかなかいい曲でした。
(これらは画像はYoutube動画内のものです)
ショパンのドラマチックな曲も、やはりこのレベルの人が弾くとテクニックや繊細さだけではない、何というか「厚み」が感じられました。ショパン、こんなに濃密だったのか!みたいな。
あぁ~、なぜショパンコンクールにエントリーするのを忘れちゃったんですか(泣) 世界の人にもっと「藤田真央」という存在を知ってもらいたかった…(もう有名かな?)
ところで、
ちょっと私は一番最初のモーツァルトの曲の時だけすごく集中力を欠いていました。それは、ピアノの音が客席の一部に変に響いている?感じがして、あれ?と思っていたのです。位置でいうと、藤田さんの斜め後ろ5~6列目の辺りの客席からピアノの音に合わせてモワンモワンと何かよく分からない音が響いてるように聴こえたのです。
で、
ここのホールってそんな音の響きかたしたっけ?あ、そうか、藤田さんの出す音がすごくパワフルだから思わぬ方向に音が反響しているのかも?などと思ってみたり。
が、いや、おかしいぞ、ピアノの音が反響しているなら、音と音のちょっとした合間にも前の音が響いて聞こえるはずじゃないか?と気づきました。ピアノの音の合間には、何故かその「反響音」は全く聴こえない。
え、じゃあこのピアノの音とダブって聞こえる音はなに?
私の席から見ると斜め前の方から聞こえてくるその音に聞き耳をたてました。そうすると、女の子が歌っているように聞こえる。そういえば開演前、小学校低学年ぐらいの女の子がホールに入っていくところを見かけました。そうか、あの子がピアノの音に合わせて歌ってるんだな。
ピアノ大好きな女の子が、ピアノに合わせて歌っている。なぁ~んだ、ちょっとしたホッコリ系の出来事じゃぁないか、と思い、安心してまたピアノの音に耳を傾けました。
が、
やっぱり何かおかしい。ピアノの音と音のわずかな合間に歌声がぴったり聴こえない不思議。おかしいなと思っているうちに、歌声は女の子とお母さん?の歌声に(゚A゚;) 親子で歌ってるのかな?でもやはり、ピアノの合間にその「歌声」はまったく漏れない。
何なんだ・何なんだ??
と思っているうちに1曲目のモーツァルトは終わりました。
そして2曲目のチャイコフスキーからは、以後、あの歌声のような音がピタッと聴かれなくなりました。
ということは、謎の音がダブって聞こえていたのはモーツァルトの曲の時だけだったのです。不思議です…。とりあえず、音響が原因でないことはそれで分かりました。
・・・・・・。
私はオカルティー好きなので、ちょっとそっちの方面の考えも頭を巡りました。まぁ、もしそうだとしても、悪いものではなさそうです。きっと単にモーツァルトが好きな母子なんでしょう。
(この話題を書いている時、PC周りに何回も白いものがヒュッヒュッと横切っていたので、響く金属音を鳴らしてみたら消えました…)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなこんなで?
演奏はあっという間に終わり、驚きました(アンコールは3曲!)。かなり集中して聴けていたんだなと感じた次第です(最初の1曲目以外は)。 ミスが無い。演奏者ご本人が集中されている。曲や音によって変化が多彩で飽きさせない。まったく中だるみが無かったんですね。
恐るべき21歳です。これからどんなふうに進化していかれるんでしょう。世界でたくさん演奏を経験して、いろんな風景や芸術を見て、素敵な恋をして、お父さんになっておじいちゃんになって…?人生の厚みがさらなる音の厚みになるんだろうなぁ。
でも、
藤田さんの独特の「可愛らしさ」はいつまでも失わずにいてもらいたい.。.:*☆
「どぉもぉ~」という感じでポテポテとちっちゃいおっつぁんよろしく舞台に現れ、ピアノの前に座るや力強く天才的な演奏をし、汗を拭きながらほてほてと再び舞台裏にはけるときの姿は、演奏時とはうって変わり「宅配業者の兄ちゃんが汗を拭きながらお届け先のオフィスの廊下を帰っていく姿」そのもの(笑)
こういう素朴さは失わないでいていただきたいものです✨⭐️
またいちだんと成長された演奏を聴く機会があったらいいなぁ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
藤田真央さんの Liszt - Hungarian Rhapsody No.2 を貼ってみます。
流れるように美しく弾いておられるところでも実際の演奏では一音一音がけっこうパワフルです。それでいてこのテクニックと彩りですよッ!しゅごい。(この動画ではシャキッとはけたり登場されてますが(笑))